2025年5月21日、京都・仏光寺通りにある会席料理店「鏑矢 まつ井」は開店から一周年を迎えました。多くのお客様に支えられた1年でした。心より感謝申し上げます。

最初の二か月は、京都の伝統的な会席料理の重圧から非常にトラディショナルな献立構成となりました。けれど三か月目に入った頃、ふと立ち止まりました。

——何かが違う。私たちらしさがない。

そう感じたのです。
私たちは、約30年にわたり10か国で日本料理を紹介する仕事に携わってきました。
その中で常に心がけていたのは、

「食材が十分にそろわないから仕方がない」
「伝統的な日本の味付けは海外で受け入れられにくいこともある」

といった言い訳を決してしないこと。
たとえ日本を遠く離れた土地であっても、いかに日本料理本来の味を再現できるか、そして、それをどのようにすれば馴染みのない現地の方々に美味しく、興味深く召し上がっていただけるか。こうした課題に向き合い、工夫と試行錯誤を重ねながら、引き出しを増やしてきました。その引き出しを活かさなければ、私たちらしい料理にはなりません。その思いに至ってからは、私たちが暮らしてきた国々のエッセンスをさりげなく料理に織り交ぜるようになりました。それは決して“フュージョン”ではなく、派手な演出もありません。

日本料理の基本を大切にし、素材の味を最大限に引き出し、できるだけシンプルで、
やさしく心に染み渡るような料理。

それこそが、私たちが目指す味わいです。私たちは必ずしも京都の有名店で修業したわけではなく、高級ブランド食材を使うわけでもありません。
しかし、長年の海外経験で培った多彩な工夫と感覚が私たちの最大の財産です。その経験を活かし、鏑矢 まつ井でしか味わえない、素材の味を活かしたシンプルで優しい会席料理を提供しています。この一年で、私たちのスタイルは少しずつ固まり、日本料理の激戦区、ここ京都の日本料理店として季節の料理を大切にすることに誇りを持っています。

今後もこの思いを胸に、気軽にお楽しみいただける日本料理の提供に努めてまいります。
どうぞこれからも鏑矢 まつ井をよろしくお願いいたします。

2025年6月18日
鏑矢 まつ井
松井理一郎・美香