会席料理とは
近ごろ、「Kaisekiを食べたい」というご希望で当店にお越しになる海外からのお客様が急増しております。和食にはさまざまなスタイルがありますが、その中でも「かいせき料理」に興味をお持ちいただけることを大変うれしく思います。
さて、「かいせき」には二種類あることをご存じでしょうか?「懐石料理」と「会席料理」です。どちらも、日本の伝統的な食文化である「本膳料理」を起源としています。
本膳料理の起源
本膳料理は平安時代に宮廷文化の中で発展し、鎌倉時代以降、武家文化を通じて体系化されました。一汁三菜を基本とした構成で、多くの膳を重ねる形式が特徴です。提供順序や礼儀作法が厳格に定められ、料理の美味しさだけでなく形式が重視されていました。そのため、儀礼的な性質が強い料理といえます。
懐石料理と会席料理の違い
《懐石料理》
懐石料理は、室町時代に茶道の一環として発展しました。「茶懐石」とも呼ばれ、千利休によって確立された茶道の流れの中で、茶席での食事として提供されるようになりました。茶会の前に空腹を満たし、濃茶を味わう準備として、一汁三菜を基本とした簡素な料理が提供されます。
「懐石」という名称は禅宗の僧侶が温めた石を懐に抱いて寒さをしのいだことに由来します。当初は「会席」の字も使われていましたが、江戸時代以降、酒宴の場で提供される会席料理と区別するため、禅の思想を反映した「懐石」の字が用いられるようになりました。しかし、近頃では、茶道の流れをくむ茶懐石(Cha-kaiseki/茶懐石)ではなくとも、漢字のイメージから一般の料理店でも『懐石』の字を使うことが多々あります。
《会席料理》
一方の会席料理は、江戸時代に町人文化の発展とともに生まれました。宴会や趣味の集まり(俳句会や連歌会など)の場で、酒を楽しむ食事として発展した料理です。懐石料理と異なり、料理の種類や品数が豊富で豪華な点が特徴です。
会席料理は「会を設けて席を楽しむ」という意味を持ち、主に宴席の料理として提供されます。一汁三菜にとらわれず、刺身、焼き物、煮物、揚げ物など、多彩な料理が並びます。見た目の美しさ、味、器、演出が調和する点が魅力です。
当店では、この会席料理をご用意しております。
会席料理と割烹の違い
日本人のお客様の中には、当店を割烹料理店と誤解される方もいらっしゃいます。カウンターでの提供スタイルが、割烹のイメージと重なるためでしょうか。
一般的にはフォーマルな場所で提供されることが多い会席料理ですが、カウンター形式の店でも提供されます。このスタイルでは、料理人が目の前で一品ずつ料理を準備し、提供します。この形式は、料理の繊細な準備を間近で感じながら、料理人との対話を楽しむことができる、インタラクティブな要素を加えます。会席料理が持つ季節感や優雅さを保ちつつ、より親密でダイナミックな体験を提供できるのです。
以下に、会席料理と割烹料理の違いを簡潔にまとめました。
会席料理
割烹
会席料理は、一篇の物語。一品ごとに章立てされた構成美と四季折々の調和を楽しむものです。一方で、割烹料理はライブ感が魅力。その場で生まれる一期一会の料理を堪能いただけます。私たちはそのように感じております。
お客様の目的やお好みに応じて会席と割烹をお選びいただければと思います。
当店のこだわり
通常、私たちは月の中ごろから翌月のメニュー構成を考え始めます。調理人と女将が何度もディスカッションを重ね、料理人とお客様それぞれの視点を深く考慮しながら熟考を重ねます。そして、月の最終週に翌月の献立を決定します。
先ほども述べたように、会席料理は一つの物語であり、その流れの中に起承転結を織り込んでいます。時にはスピード感あふれるアクション映画のように、またある時は次に何が出てくるのか予測がつかないミステリー小説のように展開します。そして、安定感のある伝統的なお料理が心安らぐホームドラマのように感じられることもあります。
お召し上がりいただく際には、料理人がその月に込めたメッセージを読み解きながら楽しんでいただけると幸いです。会席料理の魅力の一つは、そこに秘められたストーリーや想いを感じ取ることにあるのかもしれません。
とはいえ、当店では格式ばった雰囲気ではなく、どなたでも気軽に会席料理をお楽しみいただけるよう心掛けています。ご興味がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。